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最高裁判所第二小法廷 昭和29年(オ)317号 判決

主文

原判決を破棄する。

本件を東京高等裁判所に差戻す。

理由

上告人等の上告理由第一点について。

原判決理由が引用する第一審判決は、本件売渡通知書の記載によれば上告人等四名に対する売渡区域が特定されていない故をもつて、本件売渡処分を当然無効と解し、被上告人が右売渡の無効を宣言する趣旨でこれを取り消したのは違法でない旨を判示し、論旨はこの判示を非難するのである。

自作農創設特別措置法二〇条によれば、農地の売渡は、農地の売渡通知書の交付によつて行うのであるから、売渡通知書で売渡区域を特定しなければならないことは原判示のとおりである。昭和二六年三月八日の当裁判所第一小法廷の判決(判例集五巻四号民一五一頁)が買収農地の区域を特定していない買収令書の違法を判示しているのも同じ趣旨である。

しかしながら、これを本件の場合について見るに、右先例の場合のように一筆の土地の一部分を買収した場合ではなく、上告人等に売り渡されたのは、世楽前山もと六九二番の四の農地全部であつて、従つて売渡区域が明確でないというのではなく、ただ上告人等各人が売渡を受けた区域について、将来の分筆を予定して新地番を附しその面積を表示しているけれども未だ分筆登記が行われていなかつたため、各人の売渡を受けた区域が明確でなかつたというに過ぎないのである。そしてこのような売渡通知は違法というべきではあるが、それだからといつてこの違法が直ちに本件売渡処分の全体を無効に帰せしめるものと即断することはできない。本件においては、上告人等の主張によれば、その後本件取消処分前既に、売渡通知書の趣旨に従つて本件農地は分筆登記され、現在においては通知書のとおりその区域は特定されているというのであるから、そうだとすると、前記通知書の違法の瑕疵は完全に治癒されているものというべきである。殊に本件売渡処分後三年近く経過し、しかも通知書どおり特定された後、被上告人自身の過誤による売渡通知書の前示瑕疵をもつて直ちにこれを無効と解し、被上告人自ら売渡処分を取り消すことはゆるされないものといわなければならない。

以上説明のとおりであるから、原判決が、本件売渡処分を無効と解しその取消処分を是認したのは自作農創設特別措置法二〇条の解釈を誤つた違法があるものというべく、論旨は理由があつて原判決はこの点において破棄を免れない。よつて爾余の論旨に対する判断を省略し、民訴四〇七条一項により主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎 裁判官 池田克)

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